昨今、新型コロナの影響もあり、これまでよりも業務効率化・営業効率化など、様々な課題に対応したDXテクノロジーが増えています。
しかし、生産性向上のために本質的に重要なことは、社員・パートナーが会社の目的・目標に向かって自立した行動をしてくれることです。
私自身、いくつかの会社で経営層の管理職やマネージャーの経験を積んできました。
そこで今回はその経験を活かし、社員・パートナーが自ら設定した目標の適正度を、管理職が組織目標とリンクさせながらサポートしていくマネジメント手法について記事を書きます。
日本では90年代から「職務遂行能力」や「職能資格制度」に代わって成果主義が普及してきました。
特に以前の職能資格制度は終身雇用や年功序列を前提としていたため、成果を出している若手社員よりも勤続年数が長く、会社に従順である社員が優遇される傾向にありました。
しかし、バブル景気が過ぎ去り経済低迷が続く状況下で、人件費を抑えつつ、貢献度の高い社員に高い賃金を支払うという成果主義的な仕組みが必要になりました。
成果主義を実施するためには明確な評価基準が必要です。それがないと客観的評価ができないからです。
そこで、目標管理の考え方が注目されるようになったというわけです。
人事評価を目的としたものでよく使われているのが「MBO(Management By Objectives)」という手法です。
MBO(目標管理制度)は米国の経営学者ピーター・ドラッカーが提唱した手法で、グループ、または個人で目標を設定し、その達成度によって評価を決めていきます。
目標と結果の照らし合わせが明確になるため、管理者と従業員双方の納得感が得られるのが特徴です。
そのため、日本では人事評価の手法として多くの企業が導入しており、労務行政研究所の「2010年1月人事労務諸制度実施状況調査」によると、導入企業は約7割にものぼります。
MBOを実施すると、社員自らが目標を立て、達成へ向けて行動するようになります。
会社や上司から強要されているという感覚が少なくなることで、主体性や自律性を養うことができるのが特徴です。
さらに、個人目標が会社の目標とリンクすることで、自己の価値観で柔軟に成果を出せる「自律型人材」を創出していくことができます。
会社の業績に貢献できれば会社や上司、周囲からも称賛を得られるため、自尊心が満たされてモチベーションアップにつながります。
一般的に社員へ自分で目標を立てるよう促すと、自分が達成できそうな範囲よりも少しだけレベルの高い目標を立てようとします。
結果として、その目標達成に必要なスキルを主体的に取り込めるよう努力し、自然とスキルアップを図ることができます。
こういった効果が意欲的な能力開発を促すため、全体のスキルアップにも良い影響を及ぼします。
目標管理制度を運用するにあたっては、大まかに4つのステップが必要です。
まず、基点となる組織全体の目標を策定します。
経営層は経営目標を策定し、それを部長クラスであるゼネラルマネージャーへ伝えます。
その際に、一人ひとりの個人目標が組織目標達成に貢献できるような、事業ごとの目標に落とし込みます。
ゼネラルマネージャーの経営目標が決定したら、現場に近い中間管理職であるセクションマネージャーへ伝えます。
最後にセクションマネージャーはその部下に対して、組織目標の内容や意図を伝え、個人目標と具体的な行動に落とし込むプランニングを進めます。
社員・パートナーに個人目標を立ててもらうときは、その目標の評価を客観的に見ることができるかどうかも考慮し、目標が定性的な項目のみになっていないかどうかチェックし、より具体的で定量的な目標に落とし込んでいきます。
定量的とは、例えば、「受注件数20件/月」「顧客との商談会10件/月」などです。
また、本人の達成意欲を持続させるため、その人にとって目標が適切で実現の可能性がありそうか、逆に簡単過ぎてモチベーションを欠いてしまわないかなど、確かめることが大切です。
決してノルマを押し付けるような目標設定になってはいけません。
必ず、現状よりも少し高いレベルの目標になるよう調整していくことが重要です。
そして、目標達成のための具体的行動を共に話し合い、「本当にその行動でこの目標が達成できるのか」といった視点で何度かブラッシュアップしていくことをお勧めします。
人は誰しも、目標を決めたらそのまま一直線に走りきれるわけではありません。ビジネス環境が変化することで最初に立てた目標が達成困難になってくることもあるでしょう。
もしも社員・パートナーが目標達成に向けた行動で困っていることがあれば、上司は適宜相談に乗ってあげる必要があります。
そのために目標の達成度を定期的に見ながら、軌道修正をサポートしていきましょう。
できるだけ、週一・月一といったペースで行動目標ミーティングや1on1を実施することで、社員・パートナーの思いと会社の思いに乖離が出ないように軌道修正していく必要があります。
行動目標ミーティングや1on1を開催する際には、必ず簡単なアジェンダを作成しておき、それを開催前に共有しておくようにするのがコツです。
アジェンダ項目にはそれぞれそれにかける時間を設定し、ミーティングが不用意に社員・パートナーの生産時間を奪わないようにします。
評価・フィードバックは職位・職格ごとに実施します。まずは各々が立てた目標に対して自己評価を実施します。
その後、それぞれの上司が部下を客観的に評価し、その評価結果をフィードバックしていきます。
その際に、部下が評価を理解・納得し、次の行動へ活かせるよう、「なぜそういった評価に至ったのか」、「自分の行動が良くも悪くも組織に対してどのような影響を及ぼしたのか」についても丁寧に説明します。
部下がフィードバックに納得しなければ、失敗の要因の一部が自分の行動に起因していたとは考えません。
万が一、組織のせい、上司のせい、社会環境のせいと考えてしまうと、人は学習性無力感に陥ってしまいます。
ポジティブな結果はよりポジティブに、ネガティブな結果はチャレンジ精神に訴えかける指導が大切です。
KPI(Key Performance Indicator)とは、ロジックツリー形式でそれぞれの評価指標(KPI)を紐付け、組織の最終的な目標であるKGI(Key Goal Indicator)を達成していく手法です。
KPIを言い換えると「重要業績評価指標」のことで、ツーリの下部からそれぞれの目標を達成するための評価指標を定量的に積み上げていきます。
その積み上げで上位のKPIが達成でき、目標の成功要因となる重要項目(KFS)を達成していくことで、最終的に企業の「重要目標達成指標」KGIを達成していきます。
まずはKGIを達成するために不可欠なKFSを設定し、その達成のためのプロセス(KPI)を洗い出します。
そしてそれをどのレベルで達成できれば、最終的な目標が達成できるのか、そして目標がしっかりとクリア出来ているかどうかをあくまでも数値で計測していきます。
僕は90年代後半からこのKPIを使ったフレームワークである「シックス・シグマ」を改良し、顧客を起点として評価を行う「ソニーシックス・シグマ」使って、自社の事業目標や自己の営業目標の評価を行っています。
どちらかというと社員・パートナーの人事評価というよりは、プロジェクトそのものが顧客視点に立っているかどうかの指標として採用しています。
「OKR(Objectives and Key Results)」とは、米・インテル社で誕生し、GoogleやFacebookなどシリコンバレーの有名企業が取り入れていることで近年注目を集めている手法です。
OKRの特徴は、従来の計画方法に比べて高い頻度で設定し、追跡し、再評価することです。そのため、すべての社員・パートナーが同じ方向を向き、優先順位を明確化させ、一定のペースで計画を遂行していくと言われています。
また、OKRは社員・パートナーの成績と結びつく評価制度ではありません。その目標の達成度は60~70%で成功であると考えます。達成評価が低かったOKRは次回のOKRの材料として使用されます。
つまり、OKRは本質的には人事考課が目的ではなく、あくまでもプロジェクト目標の達成や組織の事業戦略遂行を目的としています。
個人の評価が担当する事業の進捗と密接な関係にあるため、ジョブ型が定着している組織に向いた評価制度であると言えます。
OKRは組織全体のフェーズ、事業部・部門のフェーズ、個人のフェーズに分かれており、それぞれが持つ”O”(Objective)目標を達成していくために、その”KR”(Key Result)主要結果を達成していくといったロジックツリーになっています。
前者のMBOやKPIが事業年度単位で実施するのに対して、OKRは1カ月又は四半期(3カ月)単位で実施していきます。
Objectiveには定性的でできるだけ分かりやすい目標を掲げ、Key Resultは2〜5個程度で必ず定量的な数値目標を設定していきます。
そして、最も重要な部分がその目標レベルの度合いです。
MBOでは自主的に少しだけ高い目標を設定してもらうという考え方でしたが、OKRはでは「困難であるが不可能ではない」や「ベストをつくせば達成できる可能性がある」という目標を立てます。
そして前述の通り、その目標の達成度は60~70%で成功であると考えます。
設定した期間が終了した後は、達成度のスコアリング(採点)を行います。スコアリングは達成度を0.0~1.0(Google方式)、又はパーセンテージでスコアリングします。
OKRは実績を評価する為のツールではなく、個人がどのような仕事に注力していたかを明確にし、貢献度を見えるようにすることが目的です。
そのため、目標設定を事業の進行状況とロジカルにリンクでき、社員・パートナーの参加意識が増し、仕事へのエンゲージメント向上が期待できると言われています。
OKRの詳しい実施方法については、Googleの記事を参考にされると良いと思います。こちらでスコアカードなどのツールも提供されています。
以下は前述の3つの管理手法に関する比較です。
そもそもの目的として、MBOが人事考課であるのに対し、後の2つはプロジェクトや戦略遂行を目的としているのが分かるかと思います。
しかし、実はピーター・ドラッカーが1950年代に提唱したMBOでは、目標管理から人事評価を行うことは推奨されていません。後に日本の慣習から、目標管理と人事評価が密接な関係を持ち、広く人事考課に使われるようになったのです。
※ 横幅が狭いブラウザでは表は横スクロールします。
MBO | KPI | OKR | |
---|---|---|---|
目的 | 人事的な報酬決定・昇進昇格決定 | プロジェクト目標達成と組織戦略の遂行 | プロジェクト目標達成と組織戦略の遂行 |
実施期間 | 事業年度内 | プロジェクト期間 | 1ヶ月又は四半期 |
レビュー頻度 | 1年 | 毎月・毎週 | 毎週 |
共有範囲 | 上司と部下の1on1 | プロジェクトメンバー | 全社 |
達成基準 | 100% | 100% | 60%〜70% |
MBOは単体でも利用することができますが、実際には コンピテンシー評価 と組み合わせたり、360度評価 と組み合わせたりなど、企業によって複合的な評価制度が採用されています。
企業の成長は、顧客と社員・パートナーのエンゲージメントと密接な関係性にあると言えます。
もちろん、株主も重要ではありますが、株式の価値を上げるのも顧客と社員・パートナーに認めてもらうことが起点となるのではないかと思っています。
僕たちアクアマイクロはこの3者の関係性を強化するDXテクノロジーを開発し、コンサルティング導入を行っています。顧客を深く理解するためのツールとしては、セールスマネジメントツールを導入することで、顧客との日々のコンタクト情報をデジタル化し、顧客インサイトを分析する支援を行います。
また、社員・パートナー一人ひとりの アセスメント を効率化するツールとして、「タレントマネジメントシステム・タレスマ」が人事考課の仕組みをデジタル化し、社員・パートナー一人ひとりのインサイト分析を実施する支援を行います。