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顧客管理(CRM)とは何か?〜顧客体験の最大化

「顧客管理」とは何だろう?

私は90年代はじめ、地域密着型の家電専門店で働いていました。
90年代はじめといえば、まだコンピュータが今ほど普及しておらず、顧客管理といえば、もっぱら顧客台帳をつけることでした。

顧客台帳にはカルテのように顧客ごとに帳票が閉じられていて、これに連絡先や属性、家族構成、購入された家電品の履歴を書いていくものでした。

顔が見える商売

大型家電量販店とは異なり、顧客は自分からは店に足を運んでくれません。ですから、自分の担当しているひとりひとりのお客様の顔が思い浮かぶようでなければ、業績は伸びません。
そのため、営業マン全員が営業車を所有し、毎日・毎週どれだけのお客様を訪問したかを、ひとつの活動指標としていました。

その店舗はバブル時代に建立され、外見がとても美しく、最初はその店頭に立って販売することに憧れて入社しました。

そんなこともあり、最初のうちはひとりひとりの顧客宅を訪問することに恐怖すら感じ、神経をすり減らして日常業務をこなしていました。
しかし、ルーティンとして毎日これを続けていると、やがて顧客との関係性に大きな変化が訪れます。

ご自宅へ訪問したお客様はやがてご自分から店舗へ足を運んでくれるようになっていきます。
そしていつの間にか、顧客が昔から知っている友人のように思えてきて、こちらから訪問することにも抵抗が無くなっていったのです。

それもそのはずです。
私の日常はまるで御用聞きのようにお客様の
自宅へ何度も足を運んでいて、ご家族と昼食や夕食をご一緒することもありました。

そしていつの間にか、お客様の家族構成や嗜好性を知ると共に、日常で起きているイベントの数々やお子さんが一人暮らしする新居の情報さえも共有しているのですから。

そういった日常のお付き合いがあるからこそ、お客様を裏切ることは決してできないし、
もっとお客様に喜んでいただくために、自分はどうすればいいのかと、深く考えるようになっていったのです。

お客様を「個」として意識することの大切さ

少し長くなりましたが、私はこれが顧客管理の原点だと感じています。
そして、これらの行動を実現するシステムとして定義したものが、「カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)」といいます。CRMとは、元々はマーケティングの専門用語でした。別の言い方で「One to Oneマーケティング」と表現することもあります。

個々の個性を見る手法

要約すると、顧客全体をひとつの固まりのように考えるのではなく、ひとつひとつ自分との関係性や、個性・現状等を管理し、それぞれに最適なアプローチを考え、実行していくという手法です。

ビジネスの形態がBtoBであったとしてもお付き合いするのはあくまでも個人ですから、企業という固まりでマクロ的に見る以外に、キーマンである個人を洞察することがより効果的だといえます。

どのようなビジネスであっても、優れた営業担当者は顧客の潜在的なニーズをくみ取ろうとする意識を持っています。
顧客視点で考え、顧客自身も気づいていなかった解決策に気付くことができれば、的確な提案ができるようになるからです。
私は地域密着の家電専門店を退職した後、コンピューターの専門商社で働いたり、家電メーカーの販社で働きました。そして三十代後半で大手家電量販店の店長を経験しました。
そこで学んだことは、たとえ規模の大きな店舗であっても、数をこなすのではなく、一人のお客様にたくさん買っていただくといった考え方をしなければならないということでした。

現在、店舗にたくさんのお客様が来店していても、その一人ひとりに満足していただかなければ、将来はない。店というのは、顧客が来ないから廃れるのではなく、顧客が帰ってこないから廃れるのです。

ボトムアップで喜んでいただく

私はあるときは2万円の安価なテレビを買いに来たお客様へ、ほぼ同サイズで18万円のテレビを買っていただいたこともありますし、安価な冷蔵庫を買いに来たご家族に、大型冷蔵庫とパソコン、ネット回線契約をセット購入して頂いたこともあります。

良い商品、より便利な商品を買っていただいたお客様ほど、何度も来店してくれる傾向があります。
「お客様にもっと豊かな体験をしていただきたい」
「もっと喜んでいただくには何をご提案したら良いか」という思いが、顧客との関係性を変えていくからだと思っています。

そういった思いを持ってOJTをしていくことで、やがて優れた後進も育っていきます。
これらをチームとして体系的に、そして効率的に実現していくことで、やがて組織が成長していくのだと思います。

CRMとSFAの違い

この「CRM」と似たシステムで「SFA」というのがあります。
SFAは「セールス・フォース・オートメーション」の略で、シンプルにいえば営業活動の自動化を主目的としたシステムです。しかし、この「CRM/SFA」には共通点もあります。
それはどちらも顧客とのやり取りを効率化するシステムという点です。

CRMは顧客情報をデータベースに格納し、営業だけでなくマーケティングや設計・開発部門に至るまで、多くの部門の顧客戦略を支えていくことができます。

一方、SFAは案件情報や商談情報など顧客との商談情報を細かく入力し、その成功プロセスを共有したり、営業活動を効率化することに使用されます。社内の属人化している営業情報を部門内でシェアし、組織として人を育てていくことに活用することができます。

ツールの選び方・使い方

最近では当社のツールのように、その両方の必要な部分を掻い摘んで統合したシステムも増えています。
ツールはあくまでも目的のためにあるべきものです。

家電店で働いていた際にも、よくご年配の方に「PCを覚えたいのだけど自信がない」という方がいらっしゃいました。
そういったお客様へは、「あくまでもPCはツールです。文房具のように考えて、何かPCで達成する目的を探してください」と伝えていました。

このサイトのデザインや構造も自分で作っているので、僕をご存じの方は「ITに詳しくて何でもそつなくこなす人」という印象を持っているかもしれません。

しかし実際には、ツールを使いこなすことをちゃんと目的を持って実現してきただけのことです。

ツールの専門家は目指さないこと

ツールを導入する際には、そのツールの専門家を目指してはいけません。あくまでも、そのツールをどんな目的で、いつまでにどのくらいの成果を上げていくために使うのかといった目標設定が重要です。

シンプルに言えば、目的と合わない機能は覚えなくてもいいのです。
現に僕は、デザイナーではありませんし、物書きでもありません。ただ、伝えたいことを伝えたい人に伝わるようにするために、目的を持って様々なことを習得していっただけです。

ですから、当社のツールは、「CRMやSFAの機能が充実していて何でも対応できる」がツールの目的ではなく、企業が達成しなければならない「顧客から見たベネフィットを作り上げること」に注力しています。

ベースのシステムを持って、その業種の目的に合わせて個々にカスタマイズ対応できることが当社製品の特徴なのです。開発を自分たちでやっていることで実現できることでもあります。

新規顧客獲得と既存顧客維持

マーケティング用語で「1:5の法則」というのがあります。

これは新規のお客様を獲得するには、既存のお客様の5倍のコストがかかるという考え方です。
皆様も経験があると思いますが、通常新規顧客は獲得するコストが高いにもかかわらず、利益率が低いことが多いです。

新規顧客獲得はコストがかかる

なぜなら、新規顧客を獲得するというのは、他のライバルから既存顧客を奪うことに繋がるからです。

他社から顧客を獲得するためには、背中を押すための何らかのキャンペーンを実施したり、他社よりも目新しいサービスを作り出すなど、コストが掛かることを実施しなければなりません。

一方、それと似た考え方で「5:25の法則」というのがあります。これは顧客離れを5%改善すれば、利益が最低でも25%改善されるという法則です。つまり、同じコストを掛けるなら、既存顧客の維持にかけたほうが利益は向上するということを示しています。

もちろん、そうすべてが単純なことではなく、一定基準の既存顧客が減っていくのなら、新規顧客の獲得をすることも重要です。新規顧客の獲得と既存顧客の繋ぎ止めを繰り返していくことで、顧客資産のベースはどんどん厚くなっていくことでしょう。

LTVの考え方

では、一度自社を利用していただいた顧客に繰り返し利用していただくためにはどのようにすれば良いのか。その答えとなる指標に「ライフタイムバリュー(LTV)」というのがあります。

ライフタイムバリュー

LTVを別の言い方で、「顧客生涯価値」と呼びます。顧客生涯価値とは、ある顧客が取引を開始してから終了するまでの期間に、自社に対してどのくらいの利益をもたらしたのかを算出するための指標です。

LTVを向上させるひとつの手法として、顧客管理という手法があると考えてください。LTVは、一般的に次の式で算出されます。

LTV=顧客の平均購入単価×平均購入回数

LTVが高いビジネスを作り出せば、自ずとそれに至った手法がリピーターを作り出すのに有効な手段であると言えるでしょう。

さらにこの式から分かることは、LTVを高めるにはアップセルやクロスセルなどで単価や購買頻度を上げるか、サブスクリプションサービス であれば、できるだけ長期に渡って取引してもらうことが必要だということです。

特に競争が激しい市場では、新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客のLTVを高める施策を打っていくことが重要だといえるのです。

CRM というツールは、この LTV を向上させることが主目的です。

LTVを向上するための手法として、購入された顧客へ定期的なインストラクションを実施する方法も効果があります。

顧客満足度を上げる

重要な要素として、顧客満足度(ロイヤリティ)を向上させるということがあります。
顧客管理をすることでそのお客様の好みや家族構成、様々なイベントのタイミングまで可視化できれば、自社が次に仕掛けるべきサービスは何であるのかや、今持っているサービスはどのお客様へ刺さるのかなどが次第に見えてきて、その後の施策に繋ぐことができるのです。

顧客満足度を上げる

一般的に、企業やブランド、サービスに対して抱いている愛着が高い顧客ほど、そのライフサイクルにおいて、繰り返し商品やサービスを購入してくれる可能性があります。

自社がなぜお客様から選ばれているのかを認知することが、やがてはその企業のブランディングに繋がるのです。

顧客満足度を上げるためにポイントサービスを取り入れたり、ランクに応じたプレゼントを差し上げるなど様々な手法があるかと思います。

それはそれとして、もっと自社にとっても顧客にとっても有意義な方法があります。

それは一言でいえば、痒いところに手が届くサービスの提供です。

「痒いところに手が届く」とは、顧客が商品を選ぶ際にさりげなく気が付かないニーズを探ってあげることです。
これは「ニーズを深堀りする」という考え方です。

たとえば、顧客が欲しいと言ったものをそのまま販売するのではなく、それよりももっと顧客の環境やニーズに合った商品を勧めてあげたり、さらにその商品を使いこなすためのオプションや付帯サービスなどを提示してあげることです。

これをマーケティング的には「アップセル」や「クロスセル」と呼びます。

この際に、顧客が余計なものを買わされたと感じないように、日頃からその顧客や市場のことをよく知っておくことが重要です。

このようなアップセルやクロスセルによって、顧客の購買単価を上げることができ、そこにさらに顧客が知り得なかったノウハウや追加サービスが付帯することによって、顧客満足度(ロイヤリティ)を向上することができるのです。

これが真にお客様に喜んで頂くということに繋がります。ビジネスの結果とは、すべてにおいてそれを実現しなくてはならないと考えています。

もちろん、すべてはそう単純ではなく、満足度が高ければ顧客は離れないというわけでもありません。
合わせて、スイッチングコストを高めるといった手法も参考になるかと思います。

失注案件を捨ててはいけない

顧客管理は顧客とのコンタクト記録や管理だけではなく、「それらのデータを活用する」といった部分にコアがあります。失注した案件であっても、その顧客には別のニーズが眠っているかもしれません。

顧客をどれくらい理解していますか?

皆さんは自社の顧客をどれくらい理解していますか?

全員が個々の顧客をすべて理解することは難しいでしょう。ですから、企業戦略的には日頃から顧客を同じニーズや嗜好性を持つセグメントに分け、各セグメントの行動パターンを分析しておくことが重要です。

そこにはそれぞれの顧客セグメントに適合したサービスやソリューションが隠れているからです。

それをしっかり把握することで、次に実施するこの施策は「このセグメントに合うのではないか」といった予測が立つようになってきます。

また、顧客を分類すると、ある嗜好性の顧客とセグメント内容が似通った他のセグメントの顧客にその製品を提案するなど、個々の自社製品・サービスがどの組み合わせの顧客セグメントに適合するかといった戦略が立てられます。

「失注」というのは、あくまでも今回提案した商材がその顧客に適合していなかったからに過ぎません。別の考え方をすれば、失注したということは現行の自社製品・サービスとは別のニーズの顧客を掘り出したということにもなります。

つまり失注は、新しいニーズを掘り出すための格好の材料であるといえるのです。

せっかくコンタクトが取れた重要な顧客を切り捨てているのは、常に顧客側ではなく、企業側であるといえます。

マーケティングとして自社の顧客を把握し、「そもそも自社の顧客は誰なのか?」という地点から、しっかりと戦略を立てていく手法があります。それがSTP分析です。

顧客管理にはどのツールを使えばいいのか?

結論から言いますと、自社の目的に合ったツールを使うのがベストです。
目的が特定の部下のマネジメントなら、大きなシステムは必要ないでしょう。

しかし、目的が自社の顧客を理解して会社の業績アップを図ることであるのなら、すべての情報を一元化して確認し、分析する機能が必要です。

もちろん、顧客が少なければ人の手間でそれを地道に行うことも考えられますが、それができるのはヒト・モノ・カネが豊富な大企業のみです。このご時世に営業個々への負荷を上げることは適切ではありません。

顧客とのつながりを可視化し、顧客が自社を利用する便益を最大化していくことが私たちの考える顧客戦略です。

ですから、中小企業こそ、システムをきちんと整備し、属人化した顧客管理から抜け出すべきだと考えます。
以下に、いくつかの顧客管理ツールの代表例を挙げていきます。

Excelで管理

Microsoft Officeのエクセルを使った管理方法です。
初めて顧客管理に取り組む場合や小規模な特定のプロジェクトだけで活用する場合などに向いていますが、早めにシステムへ移行しないとファイルが膨大になって収拾がつかなくなってしまいます。
そういった意味では、いつの時点でシステムへ移行していくなど、あらかじめ計画を立てておくことが重要です。

メリット

  • 業務用PCにインストールされていることが多く、特別なコストを必要としない。
  • 多くの人が使い慣れたアプリケーションであるため、スムーズに導入しやすい。
  • 無料で活用できるテンプレートも使用できる。

デメリット

  • 管理顧客が増加すると動作が重くなり、対応が困難である。
  • 複数の人間が同時にアクセスして作業や編集を行うことが困難(Googleスプレッドシートを使うといった解決策はある)。
  • 内容を共有し、分析するためには、人の手間が必要である。

会計システム・基幹システムで管理

入出金の記録管理が伴う「会計システム」や「基幹システム」を活用して、顧客情報を管理する方法です。
システムをひとつに統合でき、一見よく見えますが、営業的目線、戦略的目線で活用していくことは難しく、使用する営業部門は結局他の方法で再度データをまとめなければ、活用することが困難です。
前述のエクセルと組み合わせて活用するなど、工夫が必要でしょう。

メリット

  • 顧客の購買履歴などの情報をもとに、アプローチの優先順位を決めることができる。
  • 情報システム部等が主導で既に基幹システムを導入していれば、新たなコストは必要ない。
  • 顧客データは会計にも使用されるため、総務・業務の都合を考えれば、一元管理ができて便利。

デメリット

  • もともと会計業務を円滑にする目的で開発されているため、顧客とのコンタクト履歴を詳細に把握することはできません。
  • コンタクト履歴から顧客ニーズを探るなど、具体的な戦略には活用できません。
  • 営業状況共有のためには、結局別に手間をかけてエクセルなどにまとめ上げる必要があります。

営業専用ツールで管理

CRMやSFAといった営業専用のツールを使うことで、顧客管理や営業手法を属人化せず、企業としてプロセスの可視化をすることができます。

営業プロセスが可視化されていくことで、企業としての中長期に渡る戦略を立てていくことができます。
企業活動はプロフィットを得なければ持続していくことが難しくなってしまいます。一方、顧客はベネフィットを得られなければその企業と長く付き合っていくメリットがありません。その両方を維持するためにも、ここに投資すべきであると考えます。

会計・基幹システムが内向きなシステムであることに対して、こちらのシステムはより外向きであると言えるでしょう。

メリット

  • 顧客の属性情報や取引情報はもちろんのこと、購買目的やニーズなど、マーケティングや営業部門が把握すべき顧客の様々な情報を一元管理できる。
  • 他部門で蓄積したデータも共有でき、部門毎に必要なデータだけを抽出して活用するなど、社内連携が容易活発になり、業務効率化も実現できる。

デメリット

  • 自社に適したシステムの選定や、導入・初期設定などに時間を要するため、単にツールを購入するのではなく、戦略的に取り組んでくれるパートナーが必要である。
  • 営業部門にシステムの利用コストが発生する。
  • どの手法にも言えることではあるが、すべての社員が業務ルーチンとして、継続的に取り組んでいく必要がある。

企業も中堅クラスになってくると、企業戦略を持続させるためにマーケティング部門を立ち上げる必要が出てきます。

顧客リストに対して、営業部門がどのようなアプローチやフォローアップを行っているか把握したり、代表窓口に入ってくる重要な情報をリアルタイムに共有し、その後の対処や改善をスムーズに実現するなど、戦略的な企業活動を全社横断的に展開するためにも、営業部門専用のツールを活用する必要が出てきます。

関係性を深め、LTVを向上させるのが顧客戦略

このように顧客を深く理解し、一人ひとりの営業が顧客のニーズを深堀りできるようにすることは容易ではありません。日頃から顧客と接しているその瞬間を綿密に記録し、それを必要な担当者へ簡単にシェアすることができたなら、それは企業の顧客戦略にとって大きな力となることでしょう。